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「…とりあえず、シャワーでも浴びてきなよ。汗だくじゃん…。」
俺は、颯馬の方に目を向けずに話す。颯馬は何も言わない。仕方なく、俺は続ける。
「俺、お茶入れてくるから適当にどうぞ。」
そう言って、台所の方に行こうとした時、突然背後から抱きしめられた。
「……っ!?」
力が強くて振りきれない。それと、顔が赤くなるのを感じた。
「ちょっと…颯馬!?」
「……」
抱きしめたままで、颯馬は何も話さない。
「颯馬っ!ねぇ、返事してよ!」
すると、さっきより背中に重みを感じた。颯馬に異変を感じ、振り向いて颯馬の顔を見ると、顔が真っ赤で息が荒かった。
「…颯馬!?」
額を触ると、とても熱かった。俺は急いで、颯馬を自分の部屋に連れていき、ベッドに寝かせた。制服も首元を緩めて、楽にさせる。そして、台所に行ってタオルを冷たい水で冷やして、颯馬の額に乗せる。
「…ぅ……ん……」
「…颯馬……」
すると突然、腕を掴まれる。そして、ぐいっと引っ張られて颯馬の口に俺の唇が重なる。
「……っ!?」
慌てて離れる。颯馬に…キス…しちゃった……!?颯馬にキスをしてしまった罪悪感と、初めてのキスに心臓がドキドキ鳴っていることの二つの感情に、どうすることもできなかった。
「……ん」
颯馬がゆっくりと目を覚ます。俺は慌てて尋ねた。
「あ、颯馬っ!大丈夫?」
「…輝…?俺…一体……?」
「倒れたんだよ、熱で!」
「あー…そう…なんだ……ごめん、迷惑かけて…」
「全然大丈夫!むしろよかった、大事にならなくて。」
すると部屋のドアが開く。母さんが入って来た。
「あら、颯馬君。目覚ましたのね。体の具合は大丈夫?」
「…あ、はい。大丈夫です。」
「そう。」
そう言って、母さんは颯馬の額に触る。その時、俺の心臓がズキンと痛み出した。何で痛くなるんだ…?
「熱は大分下がったわね。けど、今から帰るには遅すぎるから、今日は泊まっていって。」
「そんな…悪いです……。」
「いいのよ、それに今家に返して、帰ってる途中で倒れちゃったら危険でしょう?だから泊まっていきなさい。いいわよね?輝。」
「……うん。」
「…すみません。」
「いいのよ、じゃあごゆっくり。」
そう言って母さんは部屋を出て行った。しばらく、俺らの間で沈黙が訪れる。そして、その沈黙を破ったのは、颯馬だった。
「輝…ごめん。」
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