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「い、いや…これはその……」
「問答無用。さっきの話を全部聞いていたから知っていますが、言うことを聞かせるために虐待なんて…この子の大事な命を奪うつもりですか?」
「そ、そんなつもりじゃ……」
「……もういいです。」
そう言いながら、園長先生は俺の拘束を解いてくれる。
「山城先生…あなたは本日限りで、先生を辞めていただきます。」
「そ、そんなっ!園長先生、どうかお許しください!!」
「いいえ、許すつもりはありません。」
立ち去っていく園長先生を、山城先生は追いかけていった。呆然と座り込んでいる俺に、颯真君は近寄ってきた。
「輝君!大丈夫!?」
「……うん。」
「無理して大丈夫なんて言わないでよ!」
颯真君には俺が我慢して言っていることに気づいていたみたいだ。今まで両親に迷惑かけなくなくて、人に甘えてこなかったけど…本当は甘えたかった。だから甘えてもいいんだと実感したせいか、涙が溢れてきた。
「辛かったよね?もう、大丈夫だよ。」
その言葉が、余計に俺の心を開放してくれた。颯真君と出会えなかったら、卒園まで体罰を受けていたかもしれない…だから、安心した。
「颯真君…ありがとう……」
涙を流しながらお礼を言った。
「ううん、気にしないで。」
こうして、俺の辛かった体罰人生は終わり、山城先生は保育園から出ていった。それからは平和な日常を過ごした。そして保育園を卒園し、幼稚園も卒園して小学校に入学。颯真君とは小学校も一緒で、入学してからもずっと颯真君と遊んで学んで楽しい学校生活を過ごした。けど1年生の冬休み、颯真君から衝撃の一言を聞いた。
「俺…来年の4月に、転校することになっちゃった……」
「…え…転校……?」
突然の事に、話がついていけなかった。
「転校って…どこに…?」
「えっと…東京だって…お父さんが言ってた。」
「東…京……」
現実を受け止めることが出来ない…颯真君がいなくなるなんて嫌だ……。すると目から熱いものが、頬を伝った。
「輝君……」
「ごっ…ごめんっ…泣くつもりなかったのに……」
慌てて涙を止めようとした時、颯真君は俺の両腕を掴んだ。
「俺、大きくなったら輝君の所に戻って来るから!…だから、大きくなるまで待ってて!」
「……うん!約束だよ!」
俺達は、指切りをして冬休み、3学期と過ごし、4月…颯真君一家は、遠い所に行ってしまった。
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