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翌朝。僕はいつも通りに起きてリビングに向かった。けどそこには、いつもの美味しい朝ごはんの匂いはあるものの、それを作ってくれた兄さんがいなかった。
「兄さん? 兄さーん?」
キッチンにも、お風呂場にも、二階の部屋にも、どこにも兄さんはいなかった。探しているうちに、僕は焦り始めていた。もしかしたら兄さんは、僕をおいてどこかに行ってしまったんじゃないかって。理由はきっと昨日のこと。あの後ずっと怒っていた感じはなかったけど、それをずっと隠しながら僕と話していたのかな?
「もしかしたら、まだ外にいるかも」
すぐに家を出て、町の方へ向かおうとした時だった。裏庭から男の叫び声が聞こえた。まさかと思って裏庭へ走る。そこには傷を負いながら膝でふらふらと立つ兄さんと、黒いローブの魔法使いがいた。
「兄さん!」
「アルスト! 来てはだめだ!」
その時、黒いローブの魔法使いが紫色の魔法を兄さんに放って森の方へ去っていった。魔法を受けた兄さんはその場にばたりと倒れた。
「そんなっ……! 兄さんっ!」
視界が滲んで心が不安に徐々に染められていくなか、兄さんのもとへ行くと、兄さんの体は攻撃で受けたたくさんの傷と毒の魔法にかけられた痕があった。
「兄さん、しっかりして! 兄さん! 兄さんっ!」
「アル、スト……これを……」
「これって、兄さんの短剣じゃ……」
すると兄さんは、僕の右手に短剣を握らせて、その上に自分の手を重ねながら呪文を唱えた。
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