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饅頭を食べると少女と人魂はうすぼんやりと光るようになっていた。優しく、淡い、銀色のような水色のような光だった。
「お嬢ちゃんたち、そろそろいかなきゃね。」
女将さんがそう言うと小さな霊たちは不思議そうな顔をした。
「行くべきところに行かなきゃね。」
優しい光に手をかざし、女将さんはスッと息を吸った。
次の瞬間、二人の霊は流れ星のように夜空へ吸い込まれていった。
「ねぇ、死神さま。」
娘さんはいつもこの瞬間を横でじっと見ながら、同じことを訪ねる。
「あの子達、幸せだったのかな。」
女将さんはいつも通りに同じ言葉を返す。
「私たちのお菓子が美味しく感じるのは、天国に行ける幸せ者だけさ。今度、お墓に何か持っていっておやり。」
娘さんは少しだけ口元に笑みを浮かべて応える。
「わかった。」
2つの小さな光が満月の横にそっとうまれた。
娘さんは真っ赤な瞳でそれを見届けるとお店の棚に目をやる。
満月の日は昼間と夜中にお店をやるから二回和菓子が食べられる。
女将さんはいつも必ず娘さん用の和菓子を残しておいてくれる。
「一仕事終えたあとのお菓子はおいしい。」
娘さんがお菓子をひとつ食べると、彼女の瞳は黒く戻り、はえていた角もいつの間にかなくなっていた。
「いつも一仕事してるのは私だよ。それじゃあ今日は残りを全部あげるから、ちゃんとお店を片付けるんだよ。」
女将さんはそう言うと店の奥へ消えていった。
娘さんは一つ一つ和菓子を平らげながら過去に自分たちが夜空へ送った霊たちのことを思い出す。
今日から、この饅頭の味は一味変わるな。娘さんはそう思いながら饅頭を一口でぱくりと平らげた。
いつも通り、ほかのどの人間の食べ物よりも美味しい。
娘さんが和菓子を食べる度に、夜空で星がちかちか輝く。
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