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「おい、おい! なに居眠りしてんだよ!」
先輩に肩をゆさぶられて、Aは目を覚ました。
先輩が言うには、Aは電話線を抜いて机のうえに突っ伏したまま眠っていたらしい。
「ご丁寧に電話線引っこ抜いて居眠りかますなんて、良い度胸してるじゃねーか」
「違うんですよ先輩! 名簿に、やばい電話番号があって……」
顔を真っ赤にして怒る先輩に、Aは慌てて弁明をした。
その話を聞き終えた先輩は、鼻で笑うと電話線をつなぎ直した。
「先輩、マジでやばいですよ!」
「どこからも電話なんてかかってこないじゃねーか。何がやばいんだよ」
「この番号です」
Aはまだ震えている指先で、名簿をさした。先輩は斉木という家の番号を確認すると、ためらうことなく電話番号を押していく。
「やめてください、危ないですよ!」
「うるせえ黙ってろ。……なんだこりゃ」
先輩が受話器から耳を離して、呆れた顔でつぶやいた。
「どうしたんですか?」
「どうもこうもねぇよ。聞いてみろ」
Aはもう絶対あのばあさんの声なんか聴きたくなかったからしぶったらしいが、先輩が無理やり受話器を押し付けてきた。
すると、受話器の向こうから機械的なアナウンスの声が流れていた。
『お客さまがおかけになった電話番号は現在使われておりません。電話番号をお確かめになって、もう一度おかけ直しください』
「えっ、使われてないって、そんな。だってさっき本当に」
「どーせサボってくだらない夢でも見たんだろ。おら、遅れた分さっさと取り戻せよ」
「さっきのあれが、夢……?」
Aは先輩を納得させることも出来ず、落ち着かないままむりやり電話を繰り返した。
声が震えてうわずってしまい、結局その日は一件も契約は取れずじまい。けれど、そんなのどうでもいいくらい、電話をかけるのが恐ろしくて仕方なかったという。
先輩がいなくなったのを見計らって、Aは早々にオフィスを後にした。その日は一日、良く眠ることが出来ないまま過ごしたらしい。
「あとで知ったんだけど、あの辺りは高級住宅地になる前は色々あった場所だって噂でさ」
Aは疲れた様子で首を左右に振って話を続けた。
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