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彼を見かけ始めて三ヶ月ぐらいになろうとしていた頃だった。
その日も日付が変わるぐらいの時間に、最寄り駅に到着した。
部長め、明日が休みだからって仕事を押し付けやがって。
少しイライラしながら、私はいつも通りスーパーに駆け込んだ。
スーパーに入ってすぐ、彼が居た。
いつもよりもせわしなく、生鮮食品が並ぶ所をうろうろしている。
なんだかいつもと少し様子が違う?
その訳は、しばらくするとわかった。
今日のりんごは、全て売り切れていたのだ。
きょろきょろしながら野菜・果物コーナーを回っている彼。
そしてうなだれるように肩をがっくりと落としている。
「あの、すいません」
私は勇気を持って話しかけてみた。さすがに話しかけられずにはいられない。
「いつもりんごを買ってますよね?」
彼は豆鉄砲を食らったような目で見ている。でもドン引きしてはいないみたいだ。
「そうですね、たまにあなたも見ますよ」
彼からの返事は少し意外だった。
まぁ、でもこれだけ遭遇していれば、認識されていてもおかしくはないだろう。
「うちにりんごが一杯あるんですけど…箱で送られてきたやつなんですが。
良かったら貰っていただけないでしょうか?」
彼は相変わらず、豆鉄砲がくらったような目で見ている。
でも次の瞬間、目がパアアと輝くのが見えてわかった。
「お願いします。せっかくなので奢らせてください。
そこのファミレスでいいでしょうか?」
りんごごときに奢って貰えるのは気が引けたけれど、私は素直に甘えてみることにした。
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