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少女が涙を零しながら笑顔で頷いた瞬間、列車の扉が音を立ててゆっくりと開いた。
それは終点の合図でもあり、この真相列車において悩みを抱えた者がいなくなった合図でもある。
「さぁ、行きなさい。来世で貴方が幸せになるように願っています」
「…はい、ありがとうございます」
少女は何度も涙を拭い取り、涙が瞳から零れ落ちなくなった頃、開き終わった扉に歩き出して前で止まった。
「――知る由も無い真相列車、か」
扉の外の夜空を見上げながら言う少女に男は何も言葉を返さず、ただその背中を見つめている。
扉が開き終わった今、男は少女に返せる言葉などない。真相列車が男と少女を繋ぐのは、扉が開き終わるまでだからだ。
「死なないと辿り着けない、もんね」
少女は振り返り、空になった空間を見渡す。
「――ありがとう」
少女が足を踏み出したと思った時には、まるで最初からいなかったかのようにその姿は見えなかった。
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