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「愛の反対が無関心であったとして、愛が無いのなら貴方は家族から何もされません。つまり、愛ではない、が破綻します」
「…はい、確かに」
少女の家族が少女に対して行動していたという事実は愛が無ければ生まれない行動である、というのを少女は理解した。
これによって生まれた疑問は"愛だったのか、別のものだったのか"という二択である。
「一歩進みましたね」
「…そうでしょうか」
男の発言には全く同意できなかった。少女にとっては先も周りも見えない暗闇の中を歩いているようなもので、一歩進んだとしてもそれが本質に向かっているとは限らない。
そんな不安を抱きながらも少女は口にしなかった。
「貴方はもっと自分を信じなさい」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味です」
少女には男の発言の意味は理解できたが、意図を理解することができなかった。それと同時に男の発言は愛の本質を探るにあたって必要なこととは思えず、少女は眉を顰めて怒りをあらわにする。
「ここで貴方の納得のいく答えが出たとしましょう。しかし、貴方は自分自身を信じていない。その納得のいく答えすら信じられない。どう愛の本質を探すのです」
「…そうですね、すいません」
男に言われて、発言に納得する。まず自分から信じてみよう、と心に決め、納得したら疑うことのないように切り替えた。
「では、質問します」
小さく頷くと男は再度足を組みなおして少し曲がっていた蝶ネクタイを直し、姿勢を正した。それを見て少女も姿勢を正す。
「愛に正しいはあると思いますか?」
「…え?」
そこで初めて、少女から驚きの声があがった。
それもそのはずだ。何年も愛の本質を追い続けていた少女に対して正しい愛があるかどうかを聞いているのだ。驚かないはずがない。
少女が呆気に取られていると、男は言葉を続ける。
「愛はこうでなくてはならない、愛はこうであってはならない。当てはまるものがありますか」
「…当てはまる、もの」
少女は必死に考える。痛み、苦しみ、拒絶、暴挙…感じ取ったどんな言葉を入れて文章にしても当てはまる気しかしないのだ。もしそれが感じ取ってない言葉だとしても、世の中の誰かには当てはまっていることかもしれない。それは少女にとって絶望でしかなかった。
それが意味するのは"愛は人それぞれ"だと認めていることになる。
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