知る由も無い真相列車

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「貴方は今、何を考えていますか?」 「――やめてッ!!」  列車内に拒絶の声が響く。少女は頭を抱え髪が抜けてしまうかもしれないほどの強さで髪を握りしめる。俯いていることで表情は見えないが体が震えていることから顔も恐怖に近い感情が滲み出ていることだろう。  男はこれといった行動をせず、ただ少女を見ていた。 「そんな都合のいい言葉で、私の追い求めているものを壊さないで!!」 「"愛は人それぞれ"。それもいいじゃないですか。貴方が決めれるのですから」 「やめて、やめてやめてやめてッ!!」 「貴方はただ、苦痛に打ちひしがれたあの時の感情を一言で片づけて欲しくないのでしょう」 「違う、違うッ、違う違うッ!!」  男の言う事実めかしい言葉に少女は悲鳴に近い声で否定し続けた。しかし、実のところは少女も分かり切っていたのだ。わからないフリをして、そうでありたかっただけだった。  左目を殴られる壮絶な痛みと視力を失ったと理解した時の絶望。凌辱はまるで寄生虫に体の中を弄(マサグ)られるような苦しみだった。熱したアイロンを体に当てつけられた時は体が溶けているのを理解できるのだ。  何より、それを受け続けなければいけないと理解した時のあの感情を。 「苦痛、恐怖、焦燥、後悔、無念、嫌悪、軽蔑、殺意、怨恨、憎悪…目まぐるしい程の負の感情に襲われたことでしょう。それをずっと、受け続けていたのですから」  少女は遂には声すら上げなかった。必死に耳を塞ぎ、聞こえぬフリをしているのだ。しかし、男の声は届いているであろう。 「しかしね、少女よ」  男の口調が冷酷なものから穏やかなものへと変わった。しかし、それでも少女は聞く耳を持とうとしない。  男は組んでいた足を解き、腰を上げて顔を俯かせる少女の前に膝をついた。丁度よく頭の高さが同じになろうかという程度で、男は少女の顔を覗き込むようにして見上げた。
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