第3話 彼女の一番は、俺じゃない。

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第3話 彼女の一番は、俺じゃない。

「オレもつかさも、酷い兄貴と、酷い姉貴だよな」 そう繰り出した自分の兄貴に、「そうだな」と短く答える。 「いつまで黙ってるつもりだった?結婚報告する時までか?今みたいに、地球が滅亡する、って時までか?」 泣き疲れて眠るひよりと、兄貴と、つかさの間にいる俺の声は、ほんの少し、震えている。 ひよりほどに、鈍くもない。 高ニにもなれば、違う会社で働いてるはずの二人が同じ時間、同じ日に家に帰ってくること、二人の雰囲気が、もう、ただの幼馴染みでは無いことに、気が付かないわけがない。 それでも いつか、二人の口から、きちんと、俺たちに伝えてくれるんだろうな、と思っていたから。 ひよりが俺の兄貴を好きで、俺にその感情が向けられることが無いと分かっていても、ずっと、耐えてこれたのに。 「何で、もっと早くに言ってやらなかったんだよ。何で、ひよりの気持ち、考えてやらなかったんだよ。何で、今なんだよ!」 ダンッ、と思わず床を叩いた俺に、「ごめんな」と兄貴が、辛そうな声で、俺の前にしゃがみ込む。 「お前だって、辛かったよな。ごめん」 そう言った兄貴の声に、目の奥が、ジワリと熱くなる。 「そう……だよ……!俺だって……!……ひよりに……っ」 「うん、ごめん」 グイ、と頭の後ろに手を置いた兄貴は俺を引き寄せ、ポン、ポン、ともう片方の手で、俺の背中をゆっくりと叩く。 「潤の気持ち、知ってるよ。ひよりが、オレをどう想ってくれてたかも、知ってる。それでも、見守ってくれてた潤に、甘えてた。ダメな兄貴だな、オレ」 俺の肩に顎を起きながら言う兄貴の言葉に、「ダメとか、言うな」と涙が落ちそうになるのを必死に堪えながら、答える。 「俺の、兄貴なんだから。ダメとか、言うな」 そう言った俺の声に、「ありがとな」と兄貴は小さく呟いた。 「……りょ、う兄ちゃん?」 「ひよりちゃん」 ぼんやりとしたまま、瞼を開けたひよりの瞳が、兄貴と、つかさを見て微かに揺れる。 「ひより……」 「お姉ちゃん…」 泣きそうな顔をしているつかさに、ひよりが、にこ、と笑顔を浮かべて口を開く。 「涼兄ちゃんの一番は、お姉ちゃんだったんだね」 「ひよ」 「お姉ちゃん、私、涼兄ちゃんの一番が、お姉ちゃんで良かった」 そう言ってまだ少し瞼が赤いままのひよりが、もう一度、にっこり、と笑った。
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