第3話 彼女の一番は、俺じゃない。

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「大丈夫か?」 「……冷たい」 「冷やさないと明日の朝、腫れるぞ?」 「別にいいもん」 「良くない」 「なんでよ」 保冷剤を瞼から離して言うひよりの手を瞼の位置に戻す。 「応援する、って、決めたんだろ」 「……うん」 小さく呟いたひよりの声に、俺の胸の奥底が痛い。 「腫れたままの瞼じゃ、二人とも気にするぞ」 「……うん」 ひよりの手が、微かに震えていて、そのまま、手を頭へ動かし、ゆっくりと撫でれば、微かな嗚咽が聞こえてくる。 「いつも、頭、撫でてくれてた」 「うん」 「いつも、手、繋いでくれてた」 「ああ」 「ひよりちゃん、って呼ばれるのが、嬉しくて」 「だろうな」 「好きって、言った時の、困った顔も、好きだったの」 「……うん」 「全部、全部、全部、大好きだったの……!」 「……知ってるよ」 ひとつ、ひよりが、兄貴の好きなところを云う度に、その時のひよりの様子が目に浮かぶ。 ひとつ言われる度に、俺なら、どう思うんだ?と聞きたくなる。 「何で、お姉ちゃんなの…」 「……ひより」 「何で、こんなに辛いってわかってるのに、お姉ちゃんを嫌いになれないんだろう…!」 「……うん」 「…何で、私、お兄ちゃんを好きになっちゃったんだろ……っ」 保冷剤と、瞼の隙間から、ポタポタポタ、と涙が落ちていく。 「何で、私じゃ、ないのっ」 振り絞るように言うひよりの言葉に、グイと、ひよりを思い切り抱きしめる。 「泣くなら、ちゃんと泣けよ。顔、見ないから」 「……っ」 肩に、顎を乗せ、頭をトンと寄せながら言えば、うああぁ、と俺に抱きついたまま、ひよりはようやく声をあげて、泣いた。
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