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「お昼ごはん、奢ってあげるから食べに行こっか」
「え、行く!」
「じゃあ駅前で待ち合わせね」
「わかった!」
「じゃあ行ってくるね」
「はーい」
ヒラ、と手を振って、部屋を出て行ったお姉ちゃんからは、ほんのりと甘い香水の匂いがした。
「…よ」
「あれ?部活は?」
「無い」
「サボり?」
「違うし」
パタン、と玄関のドアを閉め、道路までの短い階段を降りれば、階段の先に、潤が片手をあげて立っている。
私の通う中学のすぐ近くに、お姉ちゃんも、涼兄ちゃんも通った高校があり、潤もまた、同じ学校に通っていて、私もまた、4月に入学する予定だった。
「案外、普通な」
「潤こそ」
「まぁな」
潤の言う、「案外、普通」というのは、今朝の『地球に隕石が衝突する』というニュースのことだろう。
確かに、とても驚いたし、正直、未だにやっぱり冗談なのでは?とも思うし、実は大人総出で、私を騙しているのでは、とも思ったけれど、ひっきりなしに通知される友人たちのやり取りの通知に、そんな面倒なドッキリをするわけもないか、と、朝食のあと、私はやけに冷静に現状を把握し始めていた。
通い慣れた道を、いつものように二人で歩く。
「巨大な隕石って、どんななのかな」
「月と同じくらい、っていう説もあったな」
「へえ…そんなのが、来るんだね」
何の気なしに、空を見上げれば、冬の澄み切った青空が広がっている。
「制服、着たかったなぁ」
「着ればいいじゃん」
「そういうことじゃなくて!」
「分かってるよ、そんなこと」
ポン、と置かれた手は、いつもはグシャグシャ、と撫でるのに、今朝は優しく頭を撫でてくる。
「潤、動きがぎこちないね」
「うっせ」
「ふふ」
不器用な潤の手が、何だかくすぐったくて、くすくすと笑っていれば、潤の手が、ピタ、と止まる。
「なぁ、ひより」
「なぁに?」
「…今日」
「今日?」
名前を呼ばれ、振り返って見た潤は、痛みを堪えるような表情をしていて、「潤?」と彼を見ながら名前を呼ぶものの、「…何でもない」と視線をそらされる。
「じゃあな」
「あ、潤!」
まるで視線から逃げるように、高校の敷地内へと入っていく潤の名前を呼んでも、潤は振り返ることは無かった。
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