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「ねえ、みんなで精霊歌を歌わない?」
こんなことをアンが言い出したのは、談笑もひと段落した夕暮れ時。沙喜が自慢の“宝笛ほうてき”を見せびらかしたことが発端だった。それで曲を奏でて俺たちが交互に歌うということらしい。精霊歌とは、相手と親交を深めるとともに相手の宿す精霊に挨拶をする手段である。こういった場でこういった流れになるのは自然だ。魔法を志す者の会なのだからむしろ必然といえる。
はっきりとした自我のない下位精霊への語りかけと交流を目的とした精霊歌は地域によって大きな差があると聞く。天界では魔法の詠唱の文言のもとになったほどに重要なものだ。七曜魔法では精霊歌の位置づけがどのようなものなのか興味があった。
……しかし、それは期待に反しておよそ精霊を無視しているとまで言える代物だった。これは歌であって精霊歌ではない! 精霊への祈りや感謝のプロセスが全くと言っていいほど無い。
他のやつは平気どころか真面目にその歌を賞賛する始末。この世界における精霊歌とはこんな粗末なものなのだろうか。――なんて、俺が“仲良くなる会”にふさわしくない顔をしていると、アンが不思議そうな顔をしてこちらを見て、
「なにしけた面してんだよリャックン。あんたもなんか歌いなよ。あたしたちばっかり歌って疲れた」
だそうだ。しけた面になっているのはアン、お前の歌のせいだ!
「そうだよ。私もリャックンの歌、聞いてみたいな」
と、今度はミルカ。俺は本物の精霊歌以外歌えない……って、歌わない理由もないな!
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