7人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は、本物の歌を教えてやろうと、とある大魔法の詠唱のもとになった歌を選択した。
それは、情熱的すぎるほど情熱的な詩人よりも情熱的に。それは、わが子を愛でる母よりも情愛を込めて。
しかしながら、俺の熱唱に反応を見せたのは彼女らの内にいる精霊のみだった。精霊の活動が活発になったのに対して彼女たち本人の顔は引きつっている。なぜ、拍手がないんだ? アンやミルカの時にはあれほどあった拍手が。
拍手をしているのはただ二人、沙喜と雪だけであった。二人は感動したようにずっと拍手をしていた。
ここまできて俺は地上の魔法使いの弱さの一因に気づくことができた。というか知った。人間は精霊との心の通わせ方を知らないらしい。だから、自分の精霊の動きも分からない。“娯楽のみを目的にした歌”が彼らの歌ならば天界の歌はさぞかし奇妙なものに聞こえたことだろう。どうやら歌の評価の基準が天界と下界では大きく違うようだ。現に沙喜と雪しか拍手をしていなかった。
ん? 何で雪が拍手したんだ? 精霊の歌を知らない人間が? どういうことだろうか。
まさか独学で精霊を理解したとでもいうのだろうか。だとすれば彼女の精霊を感じ取る力は神に匹敵するといっていい。神は上位精霊を宿し、人は下位精霊を宿している。種類の違いとはそういうことで、意外かもしれないが神と人間の差はそれだけだ。しかしながら、精霊の対する感性は神のほうが圧倒的に上だ。ようするに、何が言いたいのかというと、雪冷花は普通の人間ではなさそうだということである。
最初のコメントを投稿しよう!