10 執事な二人

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「光って見えませんか?バッグのポケットの、あれはレンズです」 「……誰を撮っているんだろう」 彼女が目で追うのは蘭丸のようだった。これに当たりをつけた彼らは探りを入れることにした。 「蘭丸。休憩だ」 「ええ?もう?」 「ああ。良いから休め」 この間。太郎は店のパソコンでネットの動画にこのカフェが出ていることを突き止めた。 「これは有料チャンネルです。あの女は、その動画を作っているのかもしれませんね」 「うちの店の中って。誰が観るんだ?」 驚くロッシと翔に雨宮は顎に手を当てながら考えた。 「単純に店に来れない人でしょうけど。皆さんの個人情報を探るためかもしれないし」 「加えて。ここは人気の店ですし。さらに著名人が客としてきていたら、それは週刊誌に売れますのでね」 「……じゃあ、辞めさせないとな」 「僕たちに任せてください」 ここで雨宮は女の接客に向かった。 「お冷やを、あ?ごめんなさい」 「あ?バッグに」 こぼした水。これを拭こうと雨宮はバッグを吹き出した。 「だ。大丈夫よ」 「でも。あ。スマホだ。濡れて故障してませんか」 「あ」 スマホを取り出した雨宮に彼女は顔面蒼白になった。 「え。これって。動画を撮っているんですか?」 「……返してよ」 ここでアフルレッドと桃太郎がやってきて女を別室に連れてきた。女は不貞腐れえていた。 「なんなのよ。私が何をしたっていうのよ」 「お客様。店内の動画撮影は禁止です」 「たまたま動画モードになっていたのよ」 話を聞いていた太郎は、細々と話し出した。 「これは他の店の話ですが。あるお客様が店の美人店員の動画をネットにアップしたんです」 そこには他テーブルの第三者が映っていたが、本人の承諾を得ずにその人は動画で公開したと説明した。 「それがどうしたの」 「映っていた女性はDV被害の奥さんでした。彼女はカフェで男性弁護士と打ち合わせしていました。これをたまたま夫が見てしまったんです」 「まさか」 女の声が急に震え出した。太郎は冷たく続けた。 「……事件が起こり、被害者の子供が動画を公開した人物を訴えております。こういうことが本当にあるのです」 「桃太郎。ではどうすれば良いのだ」 「この場にパソコンがあれば自分が全て消去しますが、いかがしましょうか」 蘭丸が好きだったという女は、震える声で謝罪し、データの消去を頼んだ。 太郎は目の前であっさり消して見せた。 「君はなんでもできるのね。羨ましいわ」 彼女は窓の景色を見ながら話し出した。 親の介護で結婚時期を逃し、独り身で寂しいということだった。 「あなたのような若い人にはわからないでしょ」 「いいえ。自分も寂しいです。いつも置いてきぼりで」 パソコンに向かいながら太郎は呟いた。 「だから彼女に追いついていけるように、いつも必死なんです」 「必死」 「ええ。死に物狂いですよ」 見栄えは良い太郎。そんな彼も手が届かない女の子がいると知った女は、少し元気になってきた。 「私も、頑張ろうかな」 「男性の目線で正直に話して良いですか」 太郎は彼女にアドバイスをした。 「あなたもカフェでバイトをされてはいかがですか」 「私が?」 店員に憧れるのなら自分もその近くに行けば良いと太郎は話した。 「ここは無理ですが、きっと楽しい出会いがあると思います」 「そうね。動き出さないと」 「そうです。自分を応援してくれるのは自分だけですから」 こうして太郎は女を改心させ、店から見送った。 彼女の住所をつかんだ店は、ひとまずこの話を収めることにした。 「お疲れ!桃太郎」 「ロッシ様。これは一体」 休憩時間。太郎と雨宮の目の前には美味しそうなケーキが置いてあった。ロッシは食べろとフォークをくれた。 「どうぞ。王子様」 「うむ。頂戴するか」 「わーい、いただきまーす!」 もぐもぐ食べる二人に翔は何気に話しかけてきた。 「あのな、玲は学校でどんな様子なんだ」 「鳴瀬に関してはいうことはありませぬ」 「鳴瀬先輩は人気者ですよ。僕、大好きですもの」 「そ、そうか。あの、あいつにはその、恋人は」 恥ずかしそうな翔に太郎は首を横にふった。 「いないというか。あれではできませんね」 「財前会長。そんなことないですよ?玲さんはモテるんですよ」 「お前の言うモテるというのは重量挙げのことか?あいつならそうだな、50キロかな」 「モテるのか。そ、そうだよな」 玲のことを男の子だと思っている翔はどこか寂しい顔をした。これをロッシが慰めた。 「何言ってるんだよ。大丈夫だよ。アンドレが好きなのはお前だよ」 「ぶ!」 「ごほ!ごめんなさい。吹き出しちゃった」 吹き出した太郎と雨宮。ここに優介がやってきた。なぜかニヤニヤだった。 「どうした。いいことでもあったのか」 「うん。玲から連絡きたんだ」 ウキウキの優介は、今夜は玲が唐揚げを作って待っていると話した。 「ヒヒヒ。俺の好きなもも肉で、ニンニク入りだし?」 「優介殿は鶏肉が好物だったな」 「いいな。僕も食べてみたい」 「玲の唐揚げ……俺も興味があるな」 「ちょっと!みなさん。俺の作ったケーキはどうなのよ!?」 笑いが揃ったところで、太郎が感想を言った。 「料理長を呼んでください。これは事件です」 驚く一同であったが、太郎の真剣顔の寸劇に雨宮は反応し付き合っていた。 「王様。彼が料理長です」 「君。今後、このケーキを作ってはならない!」 「はあ?」 「王様。それは何故でしょうか」 寸劇に付き合ってくれる雨宮に太郎はドヤ顔で答えた。 「一度食べたら他のケーキが不味くなる。これでは国中のケーキ屋が潰れてしまう」 「なるほど」 「いいこと言うな」 「ねえ。いいから帰るぞ。俺もう疲れた」 こうしてこの日は静かに終えた。 数日後。学校の生徒会室で太郎たちは玲に報告をした。 「へえ。ピンクレデイも元気だったんだ」 「玲。お前はあのピンク星人を知っているのか」 「まあね……それよりも。ロッシさんから連絡来たよ。ほら」 玲のパソコンには、太郎たちが食べたケーキの写真があった。 「なになに。財前会長、『呪いのケーキ』ってあります」 「何故そのような名前なんだ」 「さあね。でもお店に出すんだから、翔さんも嬉しいんじゃないのかな」 余裕な彼女がどうも気に入らない太郎は、カマをかけて見ることにした。 「アンドレ。俺はお前が好きだ」 「え?」 甘ボイスで作ったセリフに真っ赤になった玲に雨宮も追い討ちをかけた。 「アンドレ……僕のアンドレ。おいで、僕の胸に」 変人であるがイケメンの太郎。真顔で玲を見つめた。玲は彼のイケボに頬を染めた。 「い、いやだ」 「やはりお前。あそこで働いたことがあるんだな?アンドレ、俺に隠し事とは」 すると雨宮も続いた。 「アンドレ。お仕置きだよ」 「ご、ごめんなさい!私帰る!」 ドキドキの社会科見学はこうして終了したのだった。 10話完 第二章完 第三章へ
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