鈍感な心と真夜中の住人

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 台風のあととは思えないほどの晴れ間の中見慣れた木は多くの枝を落とし葉を落とし、僕に当たったと聞かされた枝は木の腕のように転がっていた。よくケガだけで済んだなと思うほどの大きさだった。  たった一夜で見違えたイズミの木に僕は思ったよりもショックを受けることはなく呆然と見つめ折れてしまった枝がついていたであろう位置を見た。  まるで片腕をなくしたような姿なのにその堂々とした立ち方やまだ残ている枝がのびのびと伸びている様から力強さの片りんを感じた。  「満身創痍だな、イズミ」  僕はそう呟いた。もちろん返事はない。それが思った以上に悲しかった。  それから数日後安全面を考えてイズミがいた家の裏にある木を切り倒すことになり、イズミは本当にいなくなった。  真夜中の話し相手をなくして僕は数か月くらい抜け殻のような心をもって生活していた。中身がないペットボトルを抱えているような生活は軽く何の後も残さない日々だった。  体調も悪くなく学校も行っているのに家族はときどき心配してくれたけど僕は「大丈夫」と返すことに決めていた。イズミのことを話しても信じてもらえないだろうしきっと驚くだけだ。  空っぽの心はきっと決着がつかなかった恋心だと柄にもなく思った。恋心なんて今時は詩人でも使わない言葉だろう。     
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