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いなくなって気が付く僕の恋心は鈍感だ。無くなってからあったことを見つけるなんて馬鹿なことがあるだろうか。
こんなことなら気持ちを伝えておけばよかった。
自分のふがいなさを抱えていたある日クラスに転校生がきた。
ドラマでも漫画でも小説でもあるお決まりのフレーズで担任教師が紹介しはじめる。
「今日から転校してきた、サイトウイズミさんだ」
僕はその言葉にうつむいていた顔をあげて転校生を見た。そこにいる彼女は白い布で左腕をつっており明らかにケガをしているようだった。
そのつった腕を見て既視感を覚える。ひゅっと心臓が声をあげた。
「サイトウイズミです。ちょっと今ケガをしていますがすぐに治ります。よろしくお願いします」
明るさが筒抜けている声でお辞儀をする転校生イズミ。お辞儀が終わった後の笑顔からは元気さと儚さがありその笑顔が数人の男子を射止めたのは明確だった。
自己紹介を終えたイズミは指定された席に歩いていく。僕の横をすれ違うとき僕にしか聞こえない声で彼女は言った。
「満身創痍でもないんだよ」
僕はイズミの目を見る。視線は当然のように結ばれて目が離せなくなった。
濁りを知らず底を知らない透明度の高い瞳。
忘れるわけがない瞳がそこにあった。
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