鈍感な心と真夜中の住人

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 イズミは首をかしげるばかりで僕の言葉をすんなりと受け入れなかった。イズミの見慣れないものを見るような大きな瞳。言葉では表現できない表情。 いくら時間がたっても離れず記憶の一番新しい位置に固定されている。  小さいころから何でもない話をイズミとした。友達が少なかったかと言えばそういうわけではなく、学校もきちんと楽しんでいたし家族との関係もそこそこ良好だった僕だけどイズミと話しているときは心の底から安心できてほかの人には感じることがないあたたかさを胸に持つことができた。  そのあたたかさが何なのか僕はずっと後になって知ることになる。  イズミと会うことができるのは草木も眠る丑三つ時の真夜中だけ。僕は家をこっそり出て家の裏に行きそこに用意しているごみにしか見えない椅子に座って、イズミは僕と視線が合う高さにある枝に腰かけて話をした。  「この間読んだ小説が面白かったんだ。人間群像もので少し難しい感じがあったけどでも本当に良かったんだ。イズミは小説を読んだことがある?」  「もちろんない。私は人間の言葉はわかっても文字が読めないからね。書くこともできないし、でも小説というのはとてもいいものみたいだね」  「僕もいつも読んでいるわけじゃないけど、でも面白いよ。どこか遠くに行きたいときに読むとちょうどいいんだよ」     
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