鈍感な心と真夜中の住人

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 「遠く?遠くに行きたいと思うことがあるのかい」  「あるよそりゃ。明日のテストが嫌なときとか学校をさぼりたいときとか。そういう時に遠くに行きたい」  「行けるじゃないか。君は人間で足があって移動できる。私はこの木があるところしか存在することができないから移動できる君がうらやましい」  鈴が鳴るように笑うけどイズミは悲しそうに見えた。イズミはこの木から離れることができないという掟のようなものがあった。掟というよりもそうせざるを得ないのだ。  木から離れるともしくは木が無くなってしまうようなことがあるとイズミ自身が消えてしまうのだ。当たり前のことだけどイズミは木そのもので木はイズミ自身なのだ。  でもいつまでたっても人間のような姿をして木の枝に腰かけるので全く別の存在に錯覚してしまう。  もしイズミがこの木から離れることができたなら。僕ならどこに連れていくだろう。  イズミは僕以外の人間には見えないからどんなところだって行ける。なんだって見ることができるのにな、ともどかしく思う。  「一度学校というところに行ってみたい。何かを学んで多くの人間と同じ時間を過ごしてみたい。そこでどんなことを思うのか私自身を観察してみたいと時々思う」     
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