鈍感な心と真夜中の住人

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 そういうイズミの表情は悲しそうというものではなかった。ただ事実を受け止めている静かな顔をしていて今までにイズミは誰かと別れて悲しと思ったことがあるのだろうか、もしかして一度も泣いたことや悲しんだことがないんじゃないかと思った。  常にイズミからは感情というものがあまり感じられなくてそれはイズミ自身が落ち着いているせいだろうかと思っていると顔に出ていたのかイズミが口元をほころばせた。  「私に感情がないと思っているのか?」  「あ、いやそうじゃなくて。でも、イズミが感情を出しているところを見たことがないから」  正直にそういうとイズミの口元がいつもの位置に戻る。安定しているというよりも感情が抜けていると言ったほうがあっていた。  「感情もどんどん老いている気がする。リョウヘイと話しているともっと楽しいと思っていたはずなのに、最近は言葉が耳にはいりにくくなった。すまない。今日はもう休むよ。また」  いきなり話を切り上げてイズミは白い服を翻す。僕は心を引きはがされる恐怖を感じて手を伸ばしかけるがすんでのところで抑える。手を伸ばしたってイズミは上にのぼっていって追いつかない。  イズミは僕の気持ちを気にしないまま音もなく木の上に上がっていった。羽が生えているみたいにすっと上がっていく様子は見慣れているけどいつみても天使か天女のようで壮観だった。  「あ、おやすみ。またね」     
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