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彼女は繊細でユーモラスで、読み手をクスっとさせるような作品を得意とし、多くのファンを抱えていたが、その作風が変化し始めたのが凡そ3年ほど前。
それまでの作風とは打って変わって、激情に身を任せるようなタッチに変わり、読者を笑いに、悲しみに、怒りに、突き落とした。
もとの彼女の作品が好きだった私にとってこれは悲劇であったが、世間では好意的に受け入れられ、彼女の作風を真似た模造品である私の作品は、彼女の作風が変わったことで身銭を稼ぐことができるようになった。
だからこそ少し腹立たしく思ってしまったのだろう。
作家向けのちょっとした懇親会で彼女を見かけた時、私はなぜ作風を変えたのかと問うた。
「別に意識して変えたわけじゃないわよ。書いてるうちに読者をもっと楽しませたい、悲しませたい。もっと!もっと!ってそんな感情が湧き出てきて、いつの間にかこんなことになっちゃったのよね」
まるで他人事のようにしゃべる彼女に不信感を覚える。
「ふふ。もしかして、あなたの作品が私に影響を与えたんじゃないかと思ってる?私の作品は唯一にして無二よ。責任を感じてるようならやめてちょうだいね?」
私の不安を察したのか、冗談めかしてそう言った彼女の仕草には普段の彼女らしさがあった。
どうやら杞憂だったらしい。
私が安堵するように小さく笑うと、彼女の顔が輝いた。
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