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――今日もまた、彼女はステージに舞い降りる。
ネットワークから伝えられる画面に、彼女の新たな装いが浮かび上がる。
まだ幼さを残しながらも、逃れられない色香を放つ、アンバランスな肢体を揺らしながら。
――特に今日は、特別な日だ。
なぜなら、今日は真呼美が現れてから、一年目の記念日。
世界が変わり、彼女が不動の地位を手に入れた、その始まりの日だ。
――熱狂が、真呼美の周囲に満ちる。
――ネットワークの向こうから、彼女に送られる狂騒が。
何万人もの歓声を前に、薄く微笑む真呼美の姿は、ただの映像ではない。
ネットワークの向こうには、今までヴェールに包まれていた真呼美という存在が、形あるものとして存在している。
――ごく一部の人々は、今、肉の眼で彼女の姿をとらえているのだ。
今日の彼女は、いつにない装いで、世界同時放送を行っている。
0.0001%とも言われる、入手難チケット。
それを入手した観客達は、今、動く姿に歓声を上げる。
空を突き刺す絶叫も。
親の死に目でもしない泣き声も。
あまりの幸福に無言で昇天する声も。
全て等しく、肉眼が彼女を捉えたことによる、感情の高ぶりだ。
それらが入り乱れて、渦となり、会場は今にも正気を失いかけている。
――正気を保てという方が、今や、無理なのかもしれないが。
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