呼び誘う舞

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「こうしてこちらの世界に呼ばれたこと、ありがたく想っています」  もう、かつての地球では形なき彼女も、故郷に戻る必要はない。  ここもまた、彼女が住まう、魔界の一部となったのだから。  ――闇の光を、人間は自ら、踊り狂うことで開いてしまった。  それを手助けしたのは、皮肉なことに、自分達で造り上げたネットワークシステム。  神ではない、悪魔である彼女の、甘美すぎる誘い。  ……相互不信、環境異変、資源枯渇、生老病死。  希望の枯れつつある世界で、聖人となれるのは、ほんのわずか。  毒のような甘露を求めたとしても、それが人間だと、しかたないのだと。  ――もう、光に眼を焼かれるかつての人間達は、自分達を受け入れられるのだろうか。 「さぁ、踊り狂いましょう」  真呼美は、手をさしのべる。  まるで救いをほどこす、親愛なる神のように。 「決して来ない、朝陽のために」  観衆は熱狂し、うっとりと微笑む彼女の声に、全てを忘れる。  ――それは、天岩戸が閉じられ、死者に誘われる国の始まり。  ――永遠に戻ることのない人間の世界に、闇が満ちていく、始まりの宴だった。
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