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目蓋の裏に硝子の破片が混ざりこんだような夜だった。つまり激痛。
ラジオのスイッチをオンにする。夏の夜はこの一曲。明るいことを義務付けられたパーソナリティが切ないと評される今流行りの曲を流す。
合わせて台風情報。
スマートフォンの目に痛い画面で時間を確認する。23:42。一般的に真夜中と言われる時間であった。
「あのう、」
ぱちん。ぱちんぱちんぱちん。街灯が瞬いた。僕はいつでも逃げ出せるよう足に力を入れて、振り返る。
「あのう、ごめんなさい、」
「……はい」
「ええと、その、ここら辺に住んでいる人ですか」
はい、と言葉少なに答える。虫がぶんぶん飛び回る街灯の下に、ショートカットの女性がぽつんと立っていた。
「良かった。あの、道を聞きたいんです」
「はあ……」
ことん、と暗い路地に足音が響いた。茶色の、ショートブーツ。光に当たると青く透ける、膝丈のワンピース。の、上の、ずるりと長い、黒い黒いローブ。
快活に女性は笑う。
「あたし、セルジ・レルジ。親しい人はレルと呼ぶのだけど」
ことん。
「あなたはあたしをなんて呼ぶ?」
「魔女」
Got it! ちょっとキザったらしい発音が軽やかに響いた。ぴっ、と顎の下にエメラルドの瞳を光らせる木製の小鳥が飛んでくる。
「道案内、お願いしたいな」
「……」
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