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人外の少女はぱちぱち瞬きしながら存在を希薄に溶かす。水の中で絵の具が溶けるように。
「ママに、れるが、おれイをいってたって、つタえるネ」
「ありがとう。またね」
静けさが夜闇の中に滴り落ちる。
「……やー、怖かった。ごめんね?」
「ううん……あれはなに?」
んん、と唸りながら、魔女はまた歩き出す。
「街灯の妖精……、の、成りかけね。幼体」
「それが、どうして?」
「街灯は道標でもある。迷子になった時に頼ったことがあるんだけど、そしたら大元に好かれたのね。もう4年は前の話なんだけど……」
「妖精にとっては4年なんて瞬きしているあいだくらいのもんだろ」
「そうね」
右への曲がり角で、で魔女はコインをぴんっと投げる。
「Left」
「おっけ」
草むらをがさがさかき分けて歩き出す。僕は虫刺されに対して覚悟を決めて魔女に付いていく。青い炎は相変わらず夜闇に焼き付くようで、なにかを薙ぎ払っているかのようでもある。
うるさいほどに鳴いていた虫が静かになる。
「この先は、なにかあるの?」
「……、」
「……」
「この先」
ごうごう炎が燃える。ラジオは黙りこくったまま。額を伝う汗をTシャツの袖で拭う。
「この先は、ジジ、あんたの墓がある」
*
霊園はいつも線香とカビの臭いがするような気がする。
「あたし。死んでないよ」
「知ってる」
みんな知ってるよ、と僕は言う。砂利がサンダルの下でじゃりじゃり耳障りに鳴る。
御影石が青い炎に照らされて、微かに光る。刻まれた文字は留司珥。
その無理やり作られた名前を久々に見た。
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