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ねこまた堂さんが両手での親指とひとさし指をあわせて輪を作るとその先にはなぜかビルの屋上の風景ではなく、ねこまた堂の店の中が見える。
口元で何か神社で神主さんがやる祝詞のような言葉をつぶやいているのが分かるが一言一言は聞き取れず何を言っているのか分からなかった。
言葉を終えると、ねこまた堂さんが輪を作っていた手でパンと拍手を打つ。
「行きますよ!」
ねこまた堂さんの掛け声と同時に、周りの風景がぐにゃりと歪み瞬きをした瞬間既にそこはねこまた堂の店内だった。
「!!」
私が驚いてねこまた堂さんを見ると何が起こった訳でもない風にいつもの笑顔でいる。アリーナも驚いてあたりをキョロキョロと見ているが、本当にここはねこまた堂らしく、ビビアンも何食わぬ顔で接客をしてきた。
「いらっしゃいませー」
と愛想よく笑っている。
「私も一応神様ですからね。これぐらいのことは出来ますよ。さ、いつまでもじゃれ付いてないで中に入ってください。」
その言葉まで私は今までアリーナと抱き合っていたことをすっかり忘れていたことに気がついた。思わず、アリーナを手で押しのける。力が強かったのか、アリーナは後ろへ転び尻餅をついてしまった。
「なんだよ!」
抗議の声を上げるアリーナは、二、三度ズボンの埃を払うと、いつもの笑顔とは違いぶすくれた顔をこちらに向けた。私はその顔に気づかないフリをしてねこまた堂さんの待つ店の奥へと入っていった。
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