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思わず窓に近寄ると、また同じような光が明滅した。
一ヶ所ではない。
一瞬のことだが、光ったのは灯りの点いていない窓ばかりだった気がする。
男は外が見やすいようにルームライトを消し、窓ガラスの向こうに目を凝らした。チカチカと短く小さく光っては消える不規則な明滅。
「カメラのフラッシュみたいだな」
テーブルに置いてあるスマートフォンを横目で見て、男はつぶやく。
「何を撮ってるんだろう?」
男もスマートフォンのカメラを起動し、先ほどから何度も光を放っている暗い窓のひとつを狙ってズームして見た。
細長い窓に人影がある。別の窓をズームして見る。そこにもまた同じようにこちらを向いて立つ人影。
はっきり見えないがカメラかスマートフォンを窓に押しつけて構えているようだ。
男が試しに一枚撮ってみると自動でフラッシュが光り、ガラスに映った自分の姿が撮影されてしまった。舌打ちして削除しようとしたが、違和感を覚えてまじまじと見入る。
スマートフォンの画面には、異様に黒い室内の様子が写っていた。清潔なリネンで覆われているベッドや白っぽいはずの壁や天井まで、写っている部分全体が黒い。暗いのではなく黒いのだ。
そして男自身も黒い影となっているのに、血走った眼だけがはっきり写っている。
これは本当に自分なのか――男の背筋を冷たいものが走った。
気味の悪い写真を削除してルームライトのスイッチを入れる。また向こうのホテルでフラッシュが瞬いた。
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