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――地縛霊? まさか、こいつに呼ばれてしまったのか!?
男は凍りつくような恐怖で身動きできない。
枕元から煙が上がっているのに、寝ている人物は大きないびきをかいている。よく見ると灰皿がひっくり返され吸い殻が散らばっていた。
「寝煙草で出火したんだな」
男が呆然としている間に炎が上がり、ベッド上の人物の衣服や髪に火が着いた。
「おい、起きろ!」
とっさに近寄った男は寝顔を見て戦慄する――見慣れた顔のそいつは、男自身だった。
「うわぁ!!!」
ガンガンと頭が痛む。その痛みの底から男の最期の記憶が浮かび上がってくる。
いつしか男の体は炎に包まれ、激しい熱さと痛みに暴れて部屋中に火を移していた。息が苦しい。窓から脱出しようとしたが20センチ程しか開かないよう固定されていた。
「助けてくれ!」
片腕だけを外に突き出しながら男の意識が遠のいていく。
向かいの細長い窓の至る所で小さな光が盛大に瞬いた。
何かが弾けたように、すべては消える。
一か月ぶりか――男は出張のたび利用する定宿を見上げながらつぶやく。
「また304号室だったりして」
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