いつもの部屋

1/4
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

いつもの部屋

 またこの部屋か――男は脱いだ上着を椅子の背もたれに放ってベッドに腰かけた。  この地方都市には毎月のように出張で訪れるのだが、定宿は駅から徒歩5分もかからない小さなホテルだ。初めて泊まった時から、男はなぜか決まって304号室に通される。チェックインが早くても遅くてもいつも同じ部屋を用意される。予約は男自身がしているから会社がらみの指定ということはない。  ごく普通のシングルルームで、窓からは向かいのホテルが見える。  あちらは大手チェーン系列のホテルで、値段もこちらより3割増しといったところか。その分サービスなども行き届いているのだろうが、窓の小ささが気に入らなかった。縦長の窓が並ぶ外観を見ただけで、息苦しくなる。 「こっちはこんなに大きい窓なのにな」  男はベッドから窓の方に顔を向け、煙草に火をつけた。  この部屋の窓は一枚窓で、両側のロックを外せば真ん中を軸に回転して開く構造になっている。それを少しだけ開けて煙草を吸いながら、見るともなく向かいのホテルを眺めていた。  黄昏の淡い闇の中、灯りの点いた細長い窓がいくつか見える。  ふと、チカッと小さく鋭い光が目を射た。 「なんだ?」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!