BOUND FOR 2

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BOUND FOR 2

「遠征先じゃ、さんざん一緒に飯食ったけど、ありゃ、飯というより、エサだもんな」 前島が頷く。 「まあな。……けど、もうこれで遠征に行くこともないんだな、俺たち。いつも、遠征に行くのなんてちっとも嬉しくなかったけど、こうして終わってみるとあれだな……、なんて言うのか……」 しばらくの沈黙の後、小笠原がボソッと言った。 「それなりに頑張ってきたんだけどなぁ、俺も」 小笠原はいつも下らない話しかしてこないが、朝練習、居残り練習の常連だった。朝、俺が自転車置き場にいるとき、汗だくになった小笠原が着替えを持って慌てて部室に駆け込むのを何度も見たことがあった。 前島が小笠原の肩に手を置いて、何か言おうとして、そのまま口を閉じた。小笠原を見ると、俯いた顔の陰で、唇が小さく震えていた。 今日までの選手権で、小笠原はベンチには入っていたが、一度も試合には出ていなかった。だが、ハーフタイムになると、いつも率先してフィールドから帰ってきたメンバーに水のボトルを渡してくれた。今日もそうだった。ゴロー、まだまだいけるぞ、そう言った小笠原の顔が浮かんで消える。 部室に充満した汗のにおいが急に濃くなった。たまらなく息苦しくなる。俺はロッカーからエナメルバッグを引っ張り出し、そのまま、人をかき分けて出口に向かった。 ドアを押し開けて外に飛び出す。早足で校門に向けて歩いて行く。誰も追いかけて来る奴がいないのを確かめてから歩速を緩めた。 顔を上げると、右手にはグラウンドが夕日に照らされていた。ゴールはグラウンドの片隅に片付けられ、荒れていたフィールドは綺麗に均されていた。さっきまであそこを走り回っていたという実感はなかった。
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