彼女の事は、何も知らない

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気が付くと僕は、いつも彼女を目で追っていた。 京阪線出町柳行きの準急列車。 その三両目右奥の吊革に掴まり、名も知らぬ彼女はいつも物憂げな表情で佇んでいる。 端正な顔立ちをしているが飛び抜けた美人という訳ではない。むしろ装飾の少ないシンプルな服で全身を固めるその印象は、傍目に見ると地味と捉えられてもおかしくは無いだろう。 しかし何故か、彼女がいつも視界から離れない。 艶やかに靡く薄茶の髪も、澄んだ切れ長の黒瞳も、何処か気怠げな雰囲気も。その全てが僕の瞳を釘付けにする。まるで磁石の両端の様に、僕の視線を惹きつけて離さないのだ。 これは恋心か?それとも他の何か?
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