エトランジェの涙

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彼女は今日も教室の一番前、それも教卓の目の前の席に座っていた。 この女子学生……いや、学生でないのかもしれないが……は、間違いなく私のクラスの学生ではない。クラスの人数は四十人ほどで、私もほとんどの学生の顔と名前が一致しているのだ。そして、彼女は一度も出席カードを書いたことがない。間違いなく「モグリ」の聴講生である。 他学科の学生かもしれない。また、大学というところはセキュリティが比較的緩く、学生でなくても教室に入ってくることが可能なのである。少なくとも私の所属する大学のキャンパスはそうだ。だから、こういう「モグリ」の聴講生が時々現れることもないわけではない。 しかし…… 「物理学特論」などという科目を、わざわざモグリになってまでも聞きたいなんて、よっぽど変わっている女の子だ。しかし、彼女はいつも、私の目の前で熱心に話を聞いている。しかも、あまり化粧っ気は感じさせないのにもかかわらず、ルックスが恐ろしいほど整っているのだ。黒髪ロングだが、顔立ちは日本人離れしている程に彫りが深い。ハーフなのかもしれない。クラスの男子はモーションかけたくてしょうがなさそうにしているが、どうにも経験値が足りない奴らばかりなのか、結局何もアプローチできないようだった。 ただ、私は、彼女と目が合うたび、誰かに似ているような気がしていた。しかし、それが誰かはどうしても思い出せない。単なる気のせいかもしれない。そんなわけで、一度彼女と話をしてみたい、と思っているのだが、何故か彼女はいつも講義が終わるとすぐ姿を消してしまうのだった。 だが、今日の講義が終わり、私が帰り仕度をしていたときだった。 「朝川先生」 「はい?」 声の方に振り向くと、例の彼女が笑顔を私に向けていた。 「先生、これから少しお時間ありますか?」 なんと。 彼女の方からアプローチを仕掛けてくるとは……男子学生の嫉妬の視線が、粒子加速器(コライダー)のビームのように私に収束するのが分かる。 「あ、ああ。ありますが……何か?」 「良かった……」 彼女は何故か大げさに安堵のため息をつく。 「実は、少し内密にお話したいことがありまして……研究室にお邪魔していいですか?」 「ええ、いいですよ。私も君と話をしたいと思っていたからね」 そう言うと、彼女はふわりと微笑んだ。 ―――
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