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私は真夜中の道路で目を覚ました。
頭が強く痛む。頭を抑えながら、上半身を起こした。
「ここ、どこだろう?」
見たこともない大通り。自分がなぜこんなところで寝ていたのか、思い出せなかった。
それだけではない。私は自分に関する記憶さえも失っていたのだ。
私の名前は・・・。思い出そうとしても、何も思い浮かばない。
手掛かりは、自分の着ていたしわくちゃのスーツだけだった。肌触りのよさから、元々は値段のするスーツであったのではないか。しかしこれだけでは何もわからない。
私は辺りを見回そうと、よろめく体で立ち上がった。
そこはさきほども言ったように大通りだった。真ん中に大きな歩道が通っていて、片側にはレンガ造りの建物が、もう片側は静かな夜の海。ネオンの街灯が立ち並び、夜であるにも関わらず、歩道には多くの人が行きかっていた。
私の、見知らぬ街であった。
自分の名前も、住んでいた家も何も思い出せなかった。きっと仕事で疲れた上に、お酒でも飲んで記憶が飛んでしまっただけだ、休めば戻って来るだろう。そう言い聞かせ、海を見渡せるように置いてあったベンチに腰を掛けた。やけに人が多く、静かな場所に行きたかったのだ。
ベンチの前には、どこまでも続く暗い海が広がっていた。海の風が吹き込み、私の頭をなぜた。潮の匂いがする。静かな波の音が、私を落ち着かせてくれた。
しかし私は・・・。
思考ができるようになってきた頭で考えてみても、空をつかむように記憶は抜け落ちていた。
万全ではない体を動かし、私は歩道を歩き始めた。
すると私はここでようやく、この街の不可解さに気づいたのだ。
私の腕時計の針は、その時午前4時を指していた。要するに真夜中ということだ。しかしこの大通りを行きかう人々の中には、多くの子供たちが混じっていたのだ。まるで日曜日の正午のように、両親に手を引かれて歩いていた。
そしてもう一つ不可解な点があった。この大通りにはスーパーやカフェが多く並び、それらが午前4時にも関わらず営業をしていたのだ。
ネオンの街灯が映し出す私の影が、まるで意思を持っているように揺らめいた。
変な街だな。私はまだその程度に考えていた。
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