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私は何か噛み合わない違和感を感じた。
「申し訳ないけど、今って何時でしょうか?」
もしかしたら私の腕時計が狂っているだけかもしれない、きっとそうだ。
「今は・・・午前4時です。うちは午前0時から午前7時まで営業しております」
嫌に事務的な返事だった。
「午後0時から午前7時・・・ですか」
深夜から早朝にかけて営業をするカフェ。そんなカフェ聞いたことがない。
「かなり珍しいですよね」
「この街では、どこでも営業しているでしょう」
「どこでも・・・」
女性店員は私を見ていた。
「どうしたんですか?」
「お客様、どこからいらっしゃったんですか?」
女性店員の目つきが変わっていた。人間としての温かみが感じられなかった。
「・・・なんでそんな事を聞くんです?」
女性店員は表情も体も一切動かさず、私をじっと見ていた。
途端、店内の賑やかな話し声が消えた。なにやら私の想定外の事態が起きている雰囲気を感じていた。
一斉に、妙に見開いた客たちの目が私を見た。まさにぎょろっとした視線が、無表情のまま刺さる。
「な、なんですか?」
不気味な静寂の後、何もなかったかのように客たちは一斉に会話を始めた。
なんだ?何かがおかしい。
さっきまで話していた美人な女性店員は私を見て、よだれを垂らしていた。
「お客様ぁ?お客様ぁ?」
客たちの会話をはるかに凌ぐような、叫びに似た声だった。さっきまでの綺麗な笑顔が消え、獲物を狙う獰猛な動物の目をしていた。
ここにいてはいけない。私の勘がそう告げていた。私は悲鳴を上げながら、脱げた靴など気にせずに店を飛び出していた。
私は腰を抜かして前屈みのまま、大通りを走った。スーツに冷や汗がしたたり落ち、歪な形で滲んでいく。
まだ大通りには多くの人がいた。ふと横を見ると、家族連れや恋人たちが私を見たまま、無表情で立ち尽くしている。
この人たちは人間でありながら、私と同じ人種ではない。背筋が凍るような違和感を、私は感じていた。
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