9人が本棚に入れています
本棚に追加
女性が、金属バットで青年たちに殴打されていたのだ。女性は血を流し、顔はぼこぼこに腫れていた。
「助けて!!」
女性は顔を歪ませながら、助けを求めていた。
「死ね!死ね!」
青年たちはただ一心不乱にバットを振り下ろしている。
私はその光景に唖然とした。
青年たちに殴打されている女性、そしてそれを見ていながら表情一つ変えない客と行員たち。客の中には、退屈そうにあくびをしているものさえいた。目の前で起きていることにまるで関心がないのだ。
「なぜ助けないんですか!?」
私は行員に向かって叫んでいた。
「申し訳ございません。何のお話でしょうか?」
まるで私が言うことが間違いであるかのよう。純真無垢な赤子のような表情で、行員は言った。
ここで私は理解した。こいつらは女性を助けなくてはいけないということが、分かっていないのだ。
私は行員に怒りのまなざしを向け、血だらけの女性を助けようと青年を取り押さえた。
「あんた何をしているんだ!やめろ!警察を呼ぶぞ!」
「何って・・・人殺しでしょ」
「人殺しをしていいわけないだろ!」
「このおじさん何言ってんだ?」
殴打していた青年たちはバットを振り下ろすのをやめ、首をかしげていた。
「お前ら頭おかしいのか!」
「いやいや頭おかしいのはおじさんでしょ!」
その声に、銀行内の客たちがまた一斉に私を見た。この世界では「異端な」私に敵意をむき出しにするように、異様に見開いた目で。
「人殺しを・・・していいわけないだろう・・・」
「おじさんどっか行ってくんない?」
私は状況が呑み込めなかった。
「おら!死ね!!」
青年たちはまたバットを振り下ろし始めた。
女性は悲痛な叫びをあげていた。やがて、女性は動かなくなり、それでも執拗にバットで殴り続けた。もう人間なのかもわからない、血だらけの肉塊に。
私は全身を針で疲れるような痛みを感じた。この訳の分からない状況に、体が、脳が悲鳴を上げていたのだ。
現実のわけがない。何度も唱えていた。
私は銀行を後にした。
私の頭が、おかしくなっているのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!