真夜中の街

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女性が、金属バットで青年たちに殴打されていたのだ。女性は血を流し、顔はぼこぼこに腫れていた。 「助けて!!」 女性は顔を歪ませながら、助けを求めていた。 「死ね!死ね!」 青年たちはただ一心不乱にバットを振り下ろしている。 私はその光景に唖然とした。 青年たちに殴打されている女性、そしてそれを見ていながら表情一つ変えない客と行員たち。客の中には、退屈そうにあくびをしているものさえいた。目の前で起きていることにまるで関心がないのだ。 「なぜ助けないんですか!?」 私は行員に向かって叫んでいた。 「申し訳ございません。何のお話でしょうか?」 まるで私が言うことが間違いであるかのよう。純真無垢な赤子のような表情で、行員は言った。 ここで私は理解した。こいつらは女性を助けなくてはいけないということが、分かっていないのだ。 私は行員に怒りのまなざしを向け、血だらけの女性を助けようと青年を取り押さえた。 「あんた何をしているんだ!やめろ!警察を呼ぶぞ!」 「何って・・・人殺しでしょ」 「人殺しをしていいわけないだろ!」 「このおじさん何言ってんだ?」 殴打していた青年たちはバットを振り下ろすのをやめ、首をかしげていた。 「お前ら頭おかしいのか!」 「いやいや頭おかしいのはおじさんでしょ!」 その声に、銀行内の客たちがまた一斉に私を見た。この世界では「異端な」私に敵意をむき出しにするように、異様に見開いた目で。 「人殺しを・・・していいわけないだろう・・・」 「おじさんどっか行ってくんない?」 私は状況が呑み込めなかった。 「おら!死ね!!」 青年たちはまたバットを振り下ろし始めた。 女性は悲痛な叫びをあげていた。やがて、女性は動かなくなり、それでも執拗にバットで殴り続けた。もう人間なのかもわからない、血だらけの肉塊に。 私は全身を針で疲れるような痛みを感じた。この訳の分からない状況に、体が、脳が悲鳴を上げていたのだ。 現実のわけがない。何度も唱えていた。 私は銀行を後にした。 私の頭が、おかしくなっているのだろうか。
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