9人が本棚に入れています
本棚に追加
私は賑やかな大通りを卑屈な気持ちで歩いた。走る気力さえ、奪われていた。
手足は冷え、動悸が襲ってきた。まるで世界から取り残された気分だった。
そもそも私は昨日までどこで、どんな生活をしていたんだっけ。
私はずっとここにいたのではなかったのか。
だんだんそんな気持ちになっていた。街に、心が食われていたのかもしれない。
どれくらい歩いただろうか。初めて左にそれる道があった。
覗くと、街灯も何もない真っ暗な路地裏だった。
とにかく、人がいない場所に行きたかった。不安に思いながらも路地裏を進んでいく。
大通りを歩く家族連れや恋人たちの声が、フィルターがかかっているかのように静かになっていった。
一歩一歩、なんとか歩いて行くと、今度はマンションの立ち並ぶ住宅街に出た。そしてマンションに囲まれるように、真ん中に小さな公園があった。先ほどの大通りとは打って変わって、人はまるっきり見当たらなかった。
公園には街灯が一つだけあり、その下の赤いベンチを照らしていた。近づくと、一人の男性が街灯の灯りに照らされるように、うつむいて座っていることに気づいた。
本来ならば真夜中に一人でベンチに座る見知らぬ男性を見れば、怖いと思うだろう。しかし私はさっき見てきたどの人種よりも信頼できる、まともな人間だと直感していたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!