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ここが田舎町のさらに外れだというだけで、街では24時間絶えずどこかで人が働き続けている。
興味に駆られた僕はその夜、市の中心部に向けて歩き出した。
時刻は2時を回った頃。都会ならともかく、この辺りでは人通りはない。
今すれ違った車の運転手も、ひょっとして下半身が無かったりするのだろうか。
おっかなびっくり歩いていると、前を歩く人影を見付けた。
パーカーを着た少女の姿。振り向くと、フードの中は空だったりするのかも知れない。
足音に気付いたのか、少女はちらちらと振り返る。
安心した。中身はある。
野暮ったい黒縁眼鏡。中途半端に伸びた黒髪。
普段の僕なら同年代の少女というだけで、気後れして目を逸らす所だ。
だけど、普通の姿をしていたという安堵から、ぎこちない笑みを浮かべ挨拶をした。
「……こんばんは」
少女もコンビニへ向かう途中だったという。
ぽつりぽつりと言葉を交わすうち、お互い同じ夜の世界を歩いている事を知った。
目にした夜の住人の姿や、昼間と違う姿を見せる景色の情報を交換する。
田園の間をただ歩き続けていた僕と違い、彼女はスマホでも夜の世界を垣間見ているという。
「こう……ね、外で見てると、入れた覚えのないアプリに変わってたり、変なサイトに繋がるの」
見せて貰った画面は、僕も遊んでいるゲームのものだったが、どこかおかしい。
色調は狂って紫がかっているし、見たことの無い文字の群れが並んでいる。
「LINEも知らないメンバーに入れ替わってるし……」
友達の番号で、日本語ではない不審な通話を受けてから、夜は電源を落としているのだという。
市の中心部に住む少女は、既に何度も夜のコンビニへ足を運んでいる様子だ。
「何か見ても声は出さないで。おかしかったらすぐに出るから」
何がおかしいというんだろう?
夜道とは違い、ここには必ず店員がいるはずだ。
入店のチャイムが鳴るものの、店員の挨拶の声は返ってこない。
棚を眺めながら歩くうち、さっき見たスマホの画面の様に、奇妙な文字の記された商品が混じっているのに気付いた。
少女は文字の読めるチョコレート菓子とアイスキャンディーを選びレジに向かう。
レジには棚出しをしていたらしい店員が立っていた。
口がない。
あるべき部分は、粘土で塗り込めたようにのっぺりとしている。
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