第1章

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 仮面を取り換える際垣間見えた男の素顔は、目鼻の無い仮面そのものだった。 『帰れるうちに帰るべきだな』  新学期が始まったある日、通学の電車の中で、僕は彼女の姿を見付けた。  同じ学校だったのか。向こうも気付いたようだけど、きまり悪そうに顔を伏せた。拒絶の予感に心が折れ掛ける。  だけど、彼女はあんなに怖くて恥ずかしい目に会ったんだ。当然の反応じゃないか。 「おはよう」  自分でも分かるくらい上ずった声。  声を掛けた僕に、少し驚いた風な彼女。  でも上出来だ。下らない夜を歩くのに比べれば、ずっと有意義な勇気の使い方だ。  あの夜を最後に、もう僕は夜を歩くことはない。
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