真夏のコインランドリー

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 真夏のコインランドリーとは、この世の地獄だ。  きっちりとした企業が出している店舗なら、綺麗な外観に快適な冷房、真新しい洗濯機が揃っているのだろうが、ここは違う。  エアコンなど、何処を探しても見当たらない。  都会の発展と共に忘れ去られ朽ち果てていった、薄暗い路地の一角。経営者が未だこの世に存在するのかだろうかという疑問が真っ先に思い浮かぶこの施設で、古いドラム式の洗濯機が重い稼働音を鳴らしながら回っていた。  ここは都会の発展に置いて行かれ、誰もが存在すら覚えていない寂れたコインランドリー。  人が両手を広げられる程しかない、細長く、狭い空間に汚れた洗濯機が三台。奥には、大きなドラム式の傷だらけな洗濯機が左右に二台。ドラム式乾燥機が、その横に一台。空きスペースには背もたれも無く、中身であるクッションが飛び出ている丸いパイプ椅子が三脚。設置された当初は真っ白だったのであろう洗濯機は、時代を経るたびに黒い汚れを身に着け、今となっては寂れた路地を象徴する一つの風景となり果てている。  洗濯機による湿気と乾燥機の熱気で、壁には黒いカビが至る所に生えており、室内は蛸が茹で上がるほどに蒸し暑い。  今日は真夏、時刻は昼の二時。そして、天気は雲一つない快晴。  何処からともなく聞こえるセミの鳴き声が、三重奏を奏で耳を打つ。照り付ける太陽はアスファルトを熱し、産み出された熱気はドアが壊れた開けっ放しのコインランドリーに容赦なく進入していた。  そんな五右衛門風呂も真っ青な地獄に、若い男が一人。  コインランドリーの一番奥のパイプ椅子に座り、だらだらと汗を流している。  何故、彼はこんなところにいるのだろうか。  赤い顔で、身に着けたTシャツをじっとりと張りつけ、体を揺らしている。  前世で悪逆の限りを尽くしたのかもしれない彼は、寂れた真夏のコインランドリーで、今日もまた洗濯物が乾くのを待ち続けていた。 「となり、いいですか?」
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