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田舎道から市内を結ぶ県道24号線。片側一車線ずつの道を通る車は、ほとんどない。その道沿いに、明々としたコンビニエンスストアがぽつんと立っていた。
目の前は田んぼ。裏は山。聞こえるものは虫の声。時々カナブンが店の扉にぶつかる音に驚かされる。それほど店内は静かだった。
店内の丸い掛け時計を見て、オーナーの三木元は大きな欠伸をした。
「暇だねえ、谷くん」
「っす」
答えたのは大学生二年生のアルバイト。ツーブロックにカットされた髪の上の部分は金色に染められている。
おでんもフライヤーも補充は完璧。さっき賞味期限チェックも終わったのでやることがない。
「よし」
三木元はおもむろに足を開いた。
「腰割りをしよう」
「腰割りっすか」
「うん。体に良くて流行ってるって嫁さんが言ってた。ほら、イチローがよくやってるでしょ。体幹鍛えられるし、代謝も良くなるんだって。この無駄で暇な時間を活用しなきゃ損でしょ。谷くんも一緒にどう?」
「っす」
一分経過。
「……アタタタ、もう限界だ」
三木元は膝から崩折れた。ヒイヒイ言いながら内腿をさする。
「もう48のおっさんだから、これは効くなあ」
谷は姿勢をキープしたまま横目で三木元を見つめている。その視線の先で生まれたての子鹿のように立ち上がれないオーナー。彼は座ったままバイトの青年を見つめた。
「谷くん、すごいね。不動明王みたい」
「自分、高校まで運動部でしたから」
「何部?」
「和太鼓っす」
「それ、文化部と運動部の間の微妙なとこだね」
「っすね」
三木元はようやく立ち上がり、掛け時計を見た。
「大変だよ谷くん。まだ五分しか経ってない」
「っすね」
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