雪山の指輪

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 冬になると、山は雪山へと生まれ変わる。  滑落などの危険もあるので、多くの愛好家は冬のあいだ活動を休止するという。  しかし精児は我慢ができなかった。  幸運にも精児が住んでいたのは雪の少ない地域であったため、山頂でも積雪は15センチ程度であった。  このあたりではやや大袈裟にもみえる雪山装備を買い揃えると、冬のR山に登った。  雪山は美しかった。  人に踏み荒らされぬ森や林の雪化粧は、厳かで幻想的であった。  食事にしても、積もった雪を鍋に入れて湯を沸かすというのを知って驚いた。  それは文字通り、山を食うようなものだと精児は思った。  連休を利用して飛行機に乗り込むと、精児は雪山で有名なA山までやってきた。  初心者でも登ることのできる雪山として人気の山である。  そこはもはや別世界であった。  降り積もった雪もさることながら、霧氷に凍りついた木々は、触れば砕けてしまいそうなガラスのオブジェへと生まれ変わり、山肌を覆っている。  精児は胸が高鳴った。  片道3時間の道行も、すれ違う登山客は多かった。  雪山は天候の変化が激しいといわれるが、今日は快晴である。  輝く梢は折り重なり、氷の宮殿のように美しい。  精児は高揚感に浸りながら、雪山を登った。
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