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霧に包まれた小さな村の出来事。
村外れの小さな家の中から会話が聞こえる。
「ローラ、すまないけど井戸から水を汲んできておくれ。」
「分かった、お母さん。」
快活そうな若い声が答えた。
しばらくして白いワンピースの少女が桶を両手に抱え家から出てくる。
まだ夜が明けきっておらず外は薄暗く、周囲の草木は朝露で湿っている。
いつものように家の裏手にある井戸へ少女は向かった。
「う~寒い・・。」
少女は手に息を吹きかけるがその息は白い。
井戸から水をくみ上げ桶に移していると少女の耳に何かが聴こえてきた。
「何だろう?」
音が聴こえた森の方に目を凝らす。
少し離れた暗い森はまだ朝モヤに包まれて白くかすんでいる。
「誰かいるの?」
少女は水桶を置いて森に向かって歩いていく。
「・・・・・。」
少女には何か聞こえているようだ。
家族から森には入ってはいけないと幼いころから聞かされているはずだった。
しかし少女は何かに引き寄せられるように森に近ずいていく。
森の手前まで来ると少女は立ち止った。
「ねえ…聞こえる?」
再び森に向かい話しかける。
すると突然森の地面から湧きだすように、漆黒のローブを着た人物が現れた。
「きゃっ!」
驚き思わず後ずさりし尻もちをつく少女
ユラユラと実体が曖昧な人物の顔はフードに隠れ全く見えない。
「さあ、こっちだ…。こっちにおいで…。」
男か女か分からないしゃがれた声が少女に呼びかける。
「探していたよ、お前のような娘を…。」
「えっ?何?来ないでっ!」
腰を抜かしズルズルと下がる少女。
その時フードの奥の瞳が妖しく輝き、その光をみた少女は催眠術にでも掛かったかのように抵抗する意思を失った。
動かなくなった少女にローブの人物は生気のない灰色の手を伸ばした。
うつろな目の少女は、その手を取りゆっくり立ち上がる。
「いい娘だ…。」
口元に不気味な笑みを浮かべたローブの人物は少女の手を引き森の奥へ奥へと誘う。
少女は振り返る事も出来ずそのまま霧に包まれた深い森の中に消えていった。
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