真夜中のドライブ

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 古い時代の音楽が響く車内は、外よりほんの少しだけ温度が高い。一昔前の軽自動車の座席が狭いせいで、隣合う人肌が否応なく近くなる。どこへ向かうのかわからないドライブに付き合って、しばらく黙り込んだまま車窓を流し見ていたら、唐突に名前を呼ばれた。 「え? なに?」 「さっきから、何考えてんの?」  それはこっちのセリフ。何を考えて私を車に乗せたのか、そろそろ話してくれても良いんじゃない? って思っていたから、私は尻をずらして体をほんの少しだけ運転席の彼に向けた。 「そっちから言いなさいよ」  彼は唇の端っこを持ち上げながら前を見つめていた。アクセルを踏み込んでスピードが上がっていく。一般道なのに時速九十キロまで加速した。 「やめて!」と怒鳴ると、彼はちらりと目だけで私を見た。 「……たぶん、お前と同じことだよ」 「そ、それ! ……狡いと思う」 「そうだよ……。俺が狡いってことは、とっくに知ってるだろ?」  ぶっきらぼうに、不貞腐れた子供のように、ユキヤはつぶやいた。いつものポーカーフェイスがどこにもないせいで、調子が狂う。自分がいかに魅力的かを熟知している遊び人の彼は、シフトレバーに乗せていた左手を一瞬だけ私の右膝に乗せ換えて、すぐに戻って行った。  私は完全に、取り乱している。様子の違うユキヤから、言いようのない色気(オーラ)を感じて急に暑さを覚えた。
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