第54話『前進』

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「材木を売りに町に行くと、嫌でも色々耳に入ってくるのよ。 王様は狂って、戦争になるってなあ。 でもな、それでも、木は育つし、雨も降るのよお。 王様が狂っても、戦争になってもよお。」 そういえば、ダンゴはたまに川上から兵士の死体が流れてくると言っていた。 人の世で何が起きているのか、わずかばかりに興味を持ちながら、ここで森を管理し、材木を作っているのだろう。 「この森も焼かれるかもしれんなあ。 ダンゴも焼け死ぬかもしれんなあ。 んが、人に自然を焼き尽くすことはできねえ。 どこかの森ではまた木は育つし、雨は降るのよお。」 しばらくダンゴは火を眺めた。 男の眼の中で炎が愉快そうに踊った。 「だから、おらはまた材木を作って売るのよお。」 ダンゴはニヤっと笑ってジンタを見た。 その目が、「お前は何をするんだ?」と言っている。 だが、ダンゴはそういったことを決して口に出さなかった。 おそらく彼は、そういう(がら)ではないと自らのことを定めているのだ。 ジンタは星空を見た。 確かに、星空はジンタの苦悩には無関係に(またた)いているようだ。 ふとジンタはある輝きに目を取られた。 星団だろうか。 もやもやしていて良く見えない。 そうか、とジンタは思った。 自分もああいう星なのかもしれない。     
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