924人が本棚に入れています
本棚に追加
/204ページ
そして立ち止まったクロの視線の先を見ると、『東山高校』と掘られた学校の校門が見えた。
「マジか、めっちゃ近いんだな」
クロに話しかけながら、周囲を見渡す。どこからどうみても普通の学校で、生徒は下校しているのか、誰もいないようだった。
明日から誰も知り合いのいないこの学校に、転入生として通うことになる。最初から、耳と尻尾の生えた獣人の姿で自己紹介をして、勉強する。
「つーか、友達とかできるんかな」
あの日以来、言葉を交わしたのは家族と教師だけだ。クラスメイトは会話どころか、目すら合わせてくれなかったあの疎外感を、再び味わうことになるのだろうか。学校どころか、社会に出ても、自分はずっと孤独なまま一生を終えるのではないだろうか。
見えない不安があとからあとから、追いかけてくるようによぎり、心に暗雲が立ち込め、気分が沈んだ。
すると、ぴちゃ、と何か、手に冷たいものが触れ、煌牙が視線を下げると、煌牙の手をクロのピンク色の舌が遠慮がちに舐めていた。
「なんだよ、おまえ。俺のこと慰めてんの?」
煌牙が、クロの前にしゃがむ。
動物は人間と違って表情があるわけではないので、何を考えているのかまったく理解できない。狼の血が流れていても、動物の考えていることは理解できない。ただ、クロはどこか冷静沈着で、決して甘くはないが、わずかに優しさを感じる。そうだったらいいな、と煌牙が思っているだけに過ぎないかもしれないけれど。
煌牙は、そっと手をのばし、クロの頭に触れると、さっき母が撫でたときよりも、若干迷惑そうな顔をした。
「わかりやすく迷惑な顔すんなよ」
やはり、男よりも女のほうがいいのだろうか。そのあからさまな態度がかえって、煌牙には面白く感じた。クロに近づくと、スンと獣の匂いがした。動物なのだから当たり前だ。今までも犬の匂いを感じたことはあるが、クロはなぜか人間と犬が混ざった不思議な匂いがする。そして、なぜか、自分と少し似た匂いのような気もする。
最初のコメントを投稿しよう!