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「それなら、そういえばよかったのに」
「い、言えるわけないだろ! それにおまえ草平たちと約束してたなら、その……知らなかったから」
どうやら、草平と約束していたことを言わなかったことも、あまり良く思っていなかったのだ。
ごにょごにょと言葉を濁してはいるが、桃色に染まった煌牙の頬がすべてを示している。
「ごめんな。じゃ、続き、しよう」
「は……うわっ!」
座ったままの煌牙をぎゅっと抱きしめる。鼻をくすぐる煌牙の匂いは、人間の自分でもちゃんと嗅ぎ分けられる。
ずっと嗅いでいたくなるような甘い匂いだ。
「やめろって! ほら、宿題! 俺、宿題してるんだってば」
そう言いながら抱きしめた腕を振り払おうとする力はとても弱い。全然嫌がっていないように見える。
首筋にキスをして、優しく甘噛みすれば、「んっ」と甘ったるい声が漏れる。
煌牙の仕草や行動は言葉とかなり矛盾している。ほとんどは正反対のように思えるが、むしろ行動には煌牙の本音が見えているのだ。
――おまえ、わかりやすすぎるだろ。
昨日、さんざん抱いたのに、こんなにかわいい姿を見てしまったら、また今夜も抱きたくなってしまう。
「今夜も抱いていい?」
そう耳元で囁けば、愛しい人は返事をせずに顔を背ける。
「わかった。そうする」
その言葉に眼の前の恋人は顔を真っ赤にしながら、睨みつけてくる。どうやらわざわざ聞くな、さっさと抱け、の意味は正解だったらしい。
頭を撫でながら抱き締めると、見えないはずの煌牙の尻尾は、なぜかぶんぶんと大きく振っているような気がした。
Fin
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