プロローグ~化け物と呼ばれた日~

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 せめて、今の状況を誰かに説明して欲しかった。  授業が終わり、さっきまで、このあと駅前のカラオケにでも行こうと話していたところまでは覚えているが、そのあとの記憶がすっぽりとない。しかも今の自分は制服どころか、下着もつけていない全裸だった。教室に、自分の衣服を思われる布の残骸が散らばっている。  一体、どうしてこうなったのだろう。  ふいに、ふぁさ、と毛のようなものが膝裏に触れたので、足元を見た。そこには、ふさふさとした毛並みの銀色の尻尾が垂れていて、その尾の根本は自分の体の臀部にあった。パーティグッズやかざりものではなく、自分の意思でその尻尾はパタパタと動かせた。 ――これは、狼の尻尾か……?  なんでこんなものがついているのか、とその尾に触れると、まるで体に触れられているかのような感覚がちゃんとある。  なんとなく自分の置かれている状況がわかってきた。そして、ふと教室の窓ガラスを見て、驚愕する。窓ガラスには、全裸で、頭部には獣のような耳、尻には尻尾が生えた自分が映っていた。  水嶋煌牙(みずしまこうが)、高校三年の初夏の出来事だった。
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