929人が本棚に入れています
本棚に追加
――自分と黒斗が高校を卒業してから十年の月日が流れた。
「煌牙、明日は人間の小学生が遠足にくるらしいぜ」
狼舎の床をホウキで掃除しながら作業着姿の体格のいい男が煌牙に話しかける。
『夏休みも忙しかったっていうのに、あいかわらず盛況だな』
煌牙は、やれやれ、とため息をついた。
ここ、日本ドッグパークは日本をはじめ、世界から集められた犬たちが最適な環境で飼育されており、安全に動物と触れあえる場所として人気のスポットだ。
煌牙がここに就職して五年が経過した。最初は狼である自分が犬と一緒に仕事をするとは思わなかったが、ここには純粋な犬も人間も、そして犬と人間の獣人も普通に働いていて、お互いの立場を尊重し合った、極めて平和な環境が保たれている。
「つーか、おまえ明日休みじゃん。ずるいぞ」
『おいおい、月に一度の有給くらい多目にみてくれよ』
「俺たちが働いてる間、恋人とイチャイチャしてんだろ、まったくやってられねーぜ」
『悔しかったら、かわいいブルドッグの雌犬を見つけるこったな』
「うるせーよ!」
ブルドッグと人間の獣人である男は口からはみ出た牙を見せながら豪快に笑うと、煌牙もたまらず吹き出し、自慢の銀の毛並みが揺れた。自分は狼舎の檻の中にいて、鉄格子越しに男と話している。
煌牙は『狼の姿を来場客に見られること』が仕事なのだ。
最初のコメントを投稿しよう!