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高校卒業後、里に残ることに決めた煌牙は下宿の手伝いをしながら、自分の姿を制御できるように訓練した。最初は、突然狼になってみどりを始めとした周囲の人々を驚かせていたが、五年も経てば体が落ち着き、自分の意思で狼の姿と人間の姿に変われるようになり、ここドッグパークを就職先として紹介してもらった。
最初こそ、ドッグパーク内で動物の世話をしていたが、徐々に狼に近づいている自分の体は人間でいられる時間が日に日に短くなっていき、いまでは一ヶ月の大半を狼の姿で檻の中で過ごし、一日だけ人間の姿でいられる程度のサイクルに落ち着いた。想定していたよりもずっと早く、狼として生きている自分だが、毎日を楽しく過ごせている今の生活も悪くないと思っている。
ここで働いている獣人の中には、狼になった姿の自分と意思疎通できる相手もいるし、自分も犬の気持ちがわかるので、動物とのコミュニケーションもとることができる。人間でもあり、動物でもある今の自分にとって恵まれた環境だと思う。特に自分のような一風変わった狼を温かく受け入れてくれたありがたい仕事場だ。
「で、体調はどうなんだ?」
『問題ない。ちゃんと飯だって食った。でも薬は別でよこせ。飯に混ぜるのはナシだ』
「はは、バレた? そのほうが食いやすいかと思って」
男は悪びれることなく笑う。その薬は動物の発情を促す薬であることを煌牙は知っていて服用しなかった。自分が元から人間じゃなかったら、きっと気づかないだろうが。
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