第一章:獣人の里で暮らす

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 世間で言う『獣人』に自分が仲間入りしたことに、煌牙はそれほど驚かなかった。  なぜなら、煌牙の家系はもともとニホンオオカミの血を引く家系で、世間では異種勾配による後天性の獣人が多い中、水嶋家は先天性のニホンオオカミの獣人家系だったのだ。  家族は生まれながらにして狼の特性である、人並外れた嗅覚を持ち合わせていた。しかし、自分を含め、家族の容姿は、髪を始めとした体毛が銀色で、瞳の色はシアンブルーの澄んだ青色である以外、純血の人間そのもので、今の煌牙のように尾や耳は生えていなかった。あの日から、家族でただ一人、煌牙だけが今の獣人の容姿になってしまった。  あいかわらず、煌牙にあの"戦慄の日"の記憶はないが、狼の耳と尻尾は生えたままなのが、あれは夢ではなく現実だったのだと思い知らされる。  周囲にいた友人の証言では、煌牙は突然、狼の姿になって暴れたのだという。捕まえようとした周囲の人間を爪でひっかき、容赦なく飛びかかり、鋭い牙で噛みついたらしい。あれ以来、仲の良かった友人は煌牙から距離をおき、当然クラスメイトも近づこうとしない。煌牙の外見が普通の人間ではなくなってしまったように、もう彼らとは元の関係には戻れない。それはそうだろう。ああなってしまった記憶もなく、原因もわからない今、煌牙の意志とは関係なく、また周囲の人間に襲いかかるかもしれないのだ。  そこで学校側は、煌牙に自主退学を促し、郊外にある『獣人の里』への転居を薦めた。 「こーちゃんの下宿先、森に近いみたいね」  母は楽しそうにガイドマップを広げている。これから煌牙が世話になることになった下宿先への挨拶と手続きのため、一緒についてきたのだ。もとから狼家系なのは父方なので、煌牙の母はいわゆる純血な人間だ。
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